TRIZ

TRIZ(トゥリーズ:発明問題解決の理論)

1.TRIZとは

公理的設計法が必要機能FRの独立性を保ち、製作に必要な情報量を最小化することで設計を最適化しようとするのに対し、ロシア人G.S.Altshullerの考案した設計支援の方法TRIZでは、矛盾・対立する問題を、次元の高い発想を引き出すことで解決することを目指しています。TRIZは"Theory of Inventive Problem Solving"(発明問題解決の理論)を意味するロシア語の頭文字で、英語の頭文字をとってTIPSと呼ぶ場合もあります。この方法は、主に機械設計に関する40万件にのぼる特許(以前はInvention Machine Corp.の資料から250万件としていましたが、文献に明記されているこの数字に訂正します['97/5/1])の解析を元に考案されたもので、(ソフト設計にそのまま応用することはできませんが)特許の案出しや改良し尽くされた感のある部品に適用してみる価値は大いにあります。

TRIZのポイントは以下の3点です。

豊富な知識ベースを持つ点と、矛盾(制約条件)の克服を中心に据えている点から、公理的設計法とはお互いを補うような関係にあるといえるのではないでしょうか。

Invention Machine Corp.から発売されているソフト「Invention Machine Lab.」は、

の3つのモジュールから構成されています。Invention Machine Corp.は米国では Motorola, Kodak, GE, GM, Ford, P&G など多数の企業に納入・セミナーの実績があります。

2.工学的矛盾(Engineering Contradiction)

TRIZの基本は、Altshuller's Matrixといわれる一つの大きな表(39×39)です。縦横の軸には「特性」が並んでおり、横軸から改良したい特性を選び、縦軸からその結果悪影響の出る「特性」を選ぶと、両者の交点にこの物理的矛盾の克服に利用できそうな「原理(principle)」が提示されています。 ソフト「Invention Machine Lab.」の第1のモジュール「IM Principles」の基本機能は、この表引きを対話型で行うものです。

ユーザーはまず、「ある特性を改善しようとすると」→「ある特性に悪影響が出る」という形で問題を再定義します。ソフトウエアは様々な特性の選択肢を示しますので、ユーザーはなるべく近いものを数十のリストの中から選ぶことになります。ずばりの表現が見つからない場合もありますので何通りか試してみる必要があります。このステップは機械翻訳の前処理のようなイメージで、ある程度の慣れを要します。

するとこのソフトは、検討すべき発明原理(principle)をいくつか表示してきます(上の表の14,15はこの発明原理の番号を示します)。それぞれの原理には、詳しい解説と実例が添えられています。ユーザーはこれらの解説や例をヒントに自分の問題の解決案を見つけだします。参加者のレベルに強く依存しがちなブレイン・ストーミングに対し,方向性のあるアイデア探索が可能で、特に、問題をやや抽象度の高い表現に置き換えることで、ベテラン技術者が陥りやすい強い心理的惰性(Psychological Inertia:先入観・思いこみ)を取り除き、専門分野以外の解にも視野を広げる効果が期待できます。

【例題】ベルト駆動装置のテンションをテンション・ローラーでコントロールしています。ベルトのスピードが上がると、振動によりベルトの傷みが激しくなります。つまり「スピード」を上げると「ベルトの耐久性」に悪影響が出ます。スピードはそのまま表の見出しにありますが、振動や耐久性に相当する見出しはありません。そこで「動いている物体の体積(volume of moving object)」や「物質の量(quantity of substance)」などを選んでみます。

【ソフトの提案】「IM principlesモジュール」のいくつかの提案の中に「液圧・空圧の利用」というものがありました。これを踏まえて、解決策を考えて下さい。

【解決策の例】

3.効果(Effects)

「Invention Machine Lab.」の2番目のモジュール「IM Effects」は、実現したい機能から、使えそうな物理効果のリストを引き出す「逆引き」の辞書です。例えば、機能の一覧の「物質を消去する」グループのリストから「液体を吸収する」を選ぶと「吸収」「強磁性」「超音波細管現象」「超音波振動」「泡の利用」などが提示され、さらにそれぞれの詳しい解説、実施例を表示させることができます。

4.技術予測(Prediction)

「Invention Machine Lab.」の3番目のモジュール「IM Prediction」は既存の設計に対して、改良・進化のヒントを与えるものです。現在の設計を、構成部品・物質とそれらの間のアクションの形で表現し、そのアクションをどの様に変化させたいか指定することで応用できそうな改良案を提示します。

この「IM Prediction」には、技術進化の様々なトレンドを製品の成熟を表す「Sカーブ」に沿って表示する機能もあります。「点→線→面→空間」や「単体→対→多体」「静→動」「連続運動→振動→パルス→共鳴の利用→定常波の利用→進行波の利用」「個体→液体→気体」などといった進化トレンドが表示され、将来の製品進化のアイデアを得ることができます。

【例】


以下に示す2項目は、TRIZの一部を簡素化して取り出したもので,問題解決に役立つ機能解析のテクニックです。これらの手法は,'97年に発売されたIM社の新製品TechOptimizer Professional Editionに取り入れられています。この製品には、従来のIM Labの内容が含まれています。

5.機能解析:トリミング(Trimming)

トリミングとは、不要な部品を取り除くテクニックです。製品の進化の過程では、機能が高度化するに連れて複雑化が進み、ある時点から逆に設計が最適化されるに連れて簡素化が進むパターンがあります。そこで、既存の設計の機能を解析し、不要な部品を取り除くことを考えます。

物体Aが物体Bにある作用を及ぼしているとき、以下のいずれかの条件が成り立てば物体Aを取り除くことができます。いわゆるチェックリスト的な方法ですので、とにかく手順通り考えてみることが重要です。

条件1:対象となる物体Bがなければ

条件2:対象となる物体B自身がその作用を実現すれば

条件3:A,B以外のものがその作用を実現すれば

【例題】鋼に特殊な特性を与えるため、アルゴンガスをランス(lance)と呼ばれる特別なパイプから高圧(7〜8気圧、アルゴンは約20気圧のタンクにあり減圧して使用)で容器中の溶けた鋼の表面に吹きかける工程があります。溶鋼は容器中でアルゴンガスと勢いよく混ざります。このプロセスでは容器の壁面・底面からの熱損失が大きく、効率が悪くなっています。

この熱損失を減らすため、図のような真空システムが設計されました。容器は真空の断熱室でおおわれ、真空ポンプが設置されています。真空(低圧)断熱室による断熱のアイデアは活かすとして、コストのかかる真空ポンプを取り除くことはできないでしょうか。システムの構成要素(物体)をいくつかリストアップし、上記の3条件にそって考えてみて下さい。

【解決策の案】

6.機能解析:二者択一設計(Alternative Design)

二つの評価項目について反対の優劣特性を持つ二つの設計を並べ、一方をベース・システムとして選択します。もう一方の設計の優れた点を実現している「原理(Principle)」をベース・システムに移植することにより、両者の利点を兼ね備えた設計を実現します。機構そのものでなく原理(Principle)を移植するところがポイントです。

【例題】大型の軸受けが2種類あります。一つは潤滑剤を用いた流体軸受け、もう一つは玉軸受けです。前者は定常回転時の抵抗は小さいですが、回転開始時の抵抗が非常に大きくなっています。後者は、逆に回転開始時の抵抗は小さいですが、定常回転時の抵抗が大きくなっています。「ベース・システムの選定」→「移植すべき原理」という手順を踏んで、両者の利点を合わせ持った設計を提案して下さい。

【解決策の案】


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