TRIZ入門 まえがき

実際の設計選書

TRIZ入門

思考の法則性を使ったモノづくりの考え方

Victor R. Fey,Eugene I. Rivin,畑村洋太郎−−著
実際の設計研究会−−編著
A5版ソフトカバー184ページ,定価(2,000+税)円
ISBN4-526-04111-4
日刊工業新聞社より発売中




まえがき

 “人の考える道筋に科学性はあるのか?”という疑問に,明確に“ある”と答え,更にそれを,技術問題の解決に積極的に利用するのが,TRIZ(トゥリーズ)である.このTRIZの基本的な構成と内容とを紹介し,実際に技術上の問題解決に当たっている人々に,強力な手段を与えようとするのが本書である.

 TRIZは,今から約50年前に,旧ソビエト連邦で創始され,発達してきたものである.その基本的な考えは,人が技術問題を解決するときには必ず通る道筋があり,そのことを知って積極的に用いれば,単なる勘や経験に頼らず,誰にでも一定のレベルの解決法を見出すことができるというものである.

 執筆者の一人である畑村は,永く“実際の設計研究会”を主宰し,全くの無からある求められた機能を持つ機械やシステムを作り出すのにはどうしたらよいか,をテーマにして研究を行ってきた.詳しくは,本書の第1部に記したが,今から数年前に,CIRP(国際生産技術者会談)のワークショップに参加し,その研究の成果を“創造設計原理”と題して発表した.ところが驚いたことには,ワークショップ主宰のソーレニウス教授(スウェーデン王立工科大学 KTH)やスー教授(マサチューセッツ工科大学 MIT)に,君のやっているのととても似たものがあるよ,と教えてもらったのがTRIZであり,紹介されたのが本書の執筆者の一人であるリビン教授である.
 それ以来,リビン教授とは,発明や技術問題解決での思考過程の把握と利用の重要性について多くの討論を重ねて来たが,この度,その成果を本書の形で世に問うことになった.

 本書の構成は次の通りである.

 第1部“TRIZとはどんなものか”は畑村が今までに行った講演録を基にして,創造的な設計を行う時に頭の中で生じる過程の把握とTRIZとの関連を明らかにし,それを使うことがいかに有効であるか,また世界の中でTRIZがどのように広がろうとしているのか,などについて述べる.

 第2部“技術革新の科学”は,フェイ氏とリビン教授が最近刊行した“The Science of Innovation”の日本語訳で,TRIZの基本的な考え方,その基本的な構成と利用法そこに蓄えられている知識,などを紹介する本書の枢要部である.

 第3部“「技術革新の科学」へのコメント”は上記の“技術革新の科学”に対し,畑村の行ったコメントである.“発技術革新の科学”の中に出てくるTRIZに従った考え方に対し現在の日本の設計者や技術者なら普通こう考えるという中身,および過去に畑村の行った研究や開発の成果などをもとにしてひとつずつのデータに対してコメントしたものである.これにより,読者諸氏は,自分の身近な視座からTRIZに近づき,深く理解できるようになることを目指している.

 第4部“創造設計原理から見たTRIZ”は創造設計原理の概要と,それを基にしてTRIZの理論やソフトを実際の設計に結びつける過程を創造設計原理の立場から行った検討を行ったものである.

 第5部“TRIZの周辺”は実際の設計にTRIZを適用した例,TRIZのコンピュータソフトの構成と理論との対応,およびそのソフトを使ったときの感想,などを紹介し,読者がTRIZをより立体的に理解できるようにしている.

 このような構成を持つ本書は次のような方々に読んでいただくことを想定している.
(1)何だか面白そうに聞こえるTRIZとはいったい何かを知りたいと思っている人
(2)設計・開発・研究などで経験・勘・前例踏襲などによるのではなく,
   新しい合理的なやり方を捜している人
(3)特許などの知的所有権の合理的な取扱いを模索している人
(4)とにかく,自分の考える範囲を広げ,深めたいと希っている学生や若い技術者
(5)多くの部下に対し適切な指導と指針を与えたいと考えている指導者

 本書の執筆は次のようにして行われた.第1部は講演録をもとに畑村がまとめた.第2部は,フェイ博士,リビン教授の前記の著書を,実際の設計研究会の井形が翻訳した.第3部は,畑村のノートを基に井形が整理・構成した.第4部は実際の設計研究会の中尾と畑村とが執筆した.第5部は実際の設計研究会の服部と,東京大学工学部機械情報工学科学生の大武美保子が執筆した.

 執筆や翻訳に当たっては,TRIZの用語を日本語に置きかえなければならないが,単に直訳するのではなく,その言葉の持つ背景を考慮する必要があったので,畑村,井形,服部の間で多くの議論をしつつ,用語の選択や創造を行った.

 このような内容と趣旨で出来上った本書が,人間の思考過程を科学的に捉え,積極的に利用したいと考えている読者諸氏に少しでも役立つことができれば執筆者一同の喜びこれに過るものはない.

1997年12月15日

執筆者を代表して
実際の設計研究会会長
東京大学大学院工学系研究科教授
畑村 洋太郎


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